『岩壁音楽祭』はなぜ開催される?高畠町の歴史とロケーション特化型フェスとしての特性を考える

ca4aba8585b53822f0e8761458798eaa6_23440739_190518_0009.jpeg

 次の時代を担うのは、紛れもなく“岩壁”だーーあいみょんがストリーミングチャートを占有、Kendrick LamarやPost Maloneが『FUJI ROCK FESTIVAL '18』にて来日を果たした2018年。このほかにも、若年層を中心にTikTokがトレンドになるなど、同年は音楽とテクノロジーの側面でも密接な繋がりを目撃できたことが印象深い。その上で改めて宣言したい。次の時代を担うのは、岩壁だ。

 5月25日に開催される『岩壁音楽祭』。同イベントは、大正以来の採石場である山形・瓜割石庭公園を舞台にしたもの。これまでの野外音楽フェスシーンにおいて未開拓な、国内の様々なロケーションを打ち出す目的での開催となる。大自然のなかに人工ステージを設ける従来の野外フェスに対して、今回は古来より切り拓かれた凹凸ある岩壁にプロジェクションマッピングを投影。アーティストたちの新たな可能性を提示する。本稿では、当日の舞台がある山形・高畠町の歴史などに触れながら、同地がフェスに適する理由を紹介してみたい。

高畠町

 高畠町における採石の歴史は、江戸期にまで遡る。古来より伝わる採石方法が、“ホッキリ”と呼ばれるつるはし、ならびに玄能を用いた手彫りだ(参考:たかはた文化遺産)。同地区で採掘された巨大な石材は“高畠石”と呼称。建築・土木資源として活用されてきた。同角材は、縦1尺、横8尺、高さ2尺ほどの直方体で他地域より大ぶりに。そのため、1本の角材を切り出す際には、約4,000回もホッキリを振り下ろしており、1日につき角材1本を採取できれば、一人前だったとのことだ。また、今回のステージがある平地までには、100年近くかけて今日の岩壁頂上から掘り下ろしたという。1年間で50人が従事しても、30cmしか掘り下げられなかったというだけに、その長い歴史をしかと感じられるだろう。

 現地大学の考古学研究チームは、高畠町において石造物の様式を調査。発見した石造物147点のうち、そのほとんどが町域から採れる高畠石が使用されたものだった。同地区における今日の景観には、高畠石や瓜割石庭公園の岩壁が影響の一端にあると考えられる。さらに、同地区には専業石工はもちろん、農業閑散期のみ従事する兼業石工も存在したとのこと。元来に石材生産との関係性が深い土地柄なのだろう。それらを踏まえるに、高畠町において岩壁とは自然であると同時に、文化を創出する源ともいえる。

ca4aba8585b53822f0e8761458798eaa6_22249342_190518_0003.jpg

 今回の『岩壁音楽祭』もまた、自然と文化が交錯する場所として開催。当日は従来フェスと異なり、スクリーンを使用せず、岩壁にプロジェクションマッピングを投影。岩壁には採石の際に石工たちが刻んだ溝跡が数多に残されているのはもちろん、自然物であることから、当日の雨量や湿度によってその色合いも変化を見せる。そのため、岩壁の仕上がりによって当日の映像も大きく印象を変えることだろう。非常に大きな見どころだ。


 また、岩壁は音響面にも大きく作用する。会場は四方が岩壁に囲まれていることや、その断面の凹凸が不規則であることから、出音が大きく吸収・反響されると思われる。“ナチュラルリバーブ”と称されるこの反響もまた、その日の湿度などによってその条件が定められることだろう。当日の選曲との相性が大いに試される要素だ。

 そのほか、『岩壁音楽祭』はロケーションに特化したイベントでもある。今回の開催地周辺である山形・南陽市は、多くの温泉施設に恵まれた土地だ。次稿にて紹介する赤湯からみそラーメンの元祖・龍上海、高畠町には東北最大規模のワイン醸造所・高畠ワイナリーも存在する。岩壁の迫力にあわせて、観光資源を享受する点においても、ロケーション特化イベントと評せるだろう。ぜひとも『岩壁音楽祭』を“言い訳”に、山形の幸を堪能してほしい。

 今後も追加アーティストを発表する『岩壁音楽祭』。運営クルーは最近、クラブなどを訪れる度にこんな言葉を口にしている。「このアーティストすごくいいね。岩壁だったらもっと“映えそう”」。次世代で音楽を浴びる最良の環境となるのは、大草原や海辺なのか。あるいは、ライブハウスやナイトクラブ、自宅や通勤電車ーーいや、岩壁に優る場所はない。

Masaki Ueda